初期のソニー・HITBITブランドのゲームカセットは、ラベルが
正面と上側の両面に個別に貼ってあります(裏もありますが)。
ゲームタイトルはその上面にのみ記入されています。90年代のある
けだるい午後、私が見つけたのは上面ラベルの剥がれ落ちたタイトル
不明のカートリッジでした。しばしロマンに浸ったあと、カウンター
に持っていって、タイトルがわからないので、起動して確認してもら
えないかとお願いしました。お店の方はこころよく聞き入れて下さり、
傍らのモニターと動作試験用の本体をつないで、画面を見せてくれま
した。バトル・クロス。
箱も説明書も持たない私が、このソフトの世界観に尽きせぬ好奇心を
抱き続けているのには、こうしたいくつかの個人的な事情が重なって
いるわけです。この「バトルクロス」は、しかし相当な「引力」を発
生させていて、初プレイにおいて《伝説ソフト》の仲間入りを果たして
しまいました。(伝説には始祖星団伝説級、都市伝説級、魔城伝説級、
バビロンの黄金伝説級などの階級があり、バトルクロスは「影の伝説」
級となった。なんのこっちゃ)カタログ広告での内容紹介を読んでも、
煙にまかれた印象しか残らない。緊迫したエピソードのようだけど、
私は最初に大爆笑してしまったきり、完全に別の宇宙へと迷い込んで
しまった。各面が独自のプログラムで動いているような脈絡のなさと、
出来は良くないが、ときおり見せる原始的な躍動感の輝き、卑怯だとか
いう気も起こらない凶暴性を秘めた平和な空間。欧州の最強クラブが
夢の対決を繰り広げているチャンピオンズ・リーグを、テレビで見る
ことが出来ないとは最悪だ、いっそのこと俺は宇宙へ行こう。それも
とびきり遠い、わけのわからない宇宙へ。そうだ、バトル・クロス!
‥ってなもんですよ。むしろ遠心力というのか、これは?
驚異の宇宙、その断片‥‥(1)・敵キャラクターの暴力的な機動。その
常軌を逸した動きは、幼児が指先から放つ「ビーーボカーン」に匹敵。
(2)・敵意のない自然現象。致命的だが、近づかなければ、とりたてて
害はない。(3)・悪夢の洞窟。ここまでの3面はノーミスが基本と言わ
んばかりの死の一本道。自機の設計担当者に、ぜひ操縦を代わっても
らいたい。それがイヤなら、あの垂直尾翼を外して捨ててもらいたい。
なんというか、これほど無邪気なゲームはそんなにないと思う。
洞窟が妙に長く続くので、もしかするとエンドレスか?という気もし
ますが、実際はともかく、つまらなさとヘボさを謎でコーティングさ
れてしまった現状を、私は楽しんでいるところです。
「お‥おもしろそうですねェ」1面のデモ画像を目に、しばしのあいだ
レジ前で、気まずくも平和な空気が流れていました。そのカートリッジ
はいま、私の手元にあります。
おすすめ度 : ★★
なぜか漂う「グラディウス」の感覚 : ★★★
もてなしの心 : ★★★
制御不能なエネルギー感 : ★★★★
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