当時のMSXユーザーのトラウマに「ザナドウや無限の心臓などのビックタイトルがMSXには移植されない」というものがあった。
パソコン少年の愛読書「月刊ログイン」にはすべての機種のパソコンゲーム総合ランキングが掲載されており、その中でもトップ5は別ページで解説されていた。恐らくこのランキングが当時のパソコンゲームの人気の指標として一番権威があったように思う。
「月刊ログイン」は1988年に月二回発行となってから露骨に内容薄くなって行くのだが、86年から87年あたりは非常に読みごたえがあった。
この時期はザナドゥ、ハイドライドIIがトップ5常連であり、ウィザードリィあたりも安定した人気を誇っていた。
どのタイトルも中々MSXに移植されないなか、次々と「FM7シリーズ発売決定」「X1版8月発売」などの記事を読みながら、トイレで泣くほど悔しかった記憶がある。
MSX陣営もコナミのゲームを中心に奮闘していたのではあるが、なんだかんだで他機種の人気作品を切望し、異移植してくれないソフトハウスを呪ったものだ。
今にして思えばその頃のMSXにはFDD採用されておらず、メガロムも開発されていなかったのだから仕方がない話なのだが。
そんな折に「レリクスMSX版1986年4月発売!」の記事が発表された。しかもなんと、あの憎き(個人の感想です)PC8801やX1やFM-7版を差し置いての先行発売である。ところが狂喜乱舞する私に、FM-7ユーザーである悪友U君が不気味な忠告をするのだった。
「大体オリジナルはPC9801版だろ?MSXにまともに移植できるわけねえから、なんちゃって移植だよ。タイニーゼビウスみたいな感じになるんじゃねないの。」
私は彼の忠告を無視し、ラオックスで予約し発売日に入手することに成功した。期待に胸をふくらましていた私はオープニングデモまで4分22秒、ひたすら腕立て伏せをしながら至福の時を過ごした。
オープニングは神秘性に溢れた迫力のあるもので、クリスタルキングのテーマ曲も非常にマッチしていた。
「これは期待できるぞ!」
ゲーム開始までのロード時間3分55秒も今度はスクワットしながら全く苦にならなかった。
翌日U君が聞いてきた「どうだった?どうせなんちゃってだっただろ」
「そんな事ねえよ、グラフックが荒いけどゲーム性は結構忠実だったぜ」
この私の回答は決して嘘ではない。確かに画像は荒く、MSX1独特の汚い赤色のせいで背景とキャラクターの判別が見にくい所もあったが、ゲーム性や内容は他機種版と比べても遜色のない出来栄えだった。むしろ拡大スプライトを使用したおかげで、動きが滑らかな部分はMSX版の方がよくできている位だった。
当時国内最強性能のPC9801版がオリジナルなのだから、非力なMSXに移植するため、ボーステックが奮闘してくれた名移植とさえ言える。世間ではレリクスと言えばファミリーコンピュータ ディスクシステム版の『レリクス 暗黒要塞』の方が有名だろうが、あんな手抜き移植とは訳が違うということは力説しておきたい。
放課後その真意を確かめに来たU君は腹を抱えて笑い続け、私は憮然とした表情でテープレコーダーを操作していた。その理由はあえて語るまい。
あれから34年の時が流れ、悪友U君は父親の家業を継いで腕のいい歯医者となった。先日歯の定期検診の時にこの話題を振ると
「60分テープを13分割でロードするんだからすげえ話だよなあ」
とU君はあの頃のパソコン少年に戻り、腹を抱えて笑っていた。
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