Tagoo ファイアボール

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親記事 ファイアボール
タイトル
INSERT COIN(S)
日付Wed Mar 16 07:51:29 2005  
書いた人コメント一覧ZL <planetary_titan_sushiya@hotmail.com>

当時はあまり考えていなかったと思うんだけど、ピンボールってかなり
採算を度外視した「見世物」だったんじゃないでしょうか。1プレイで
200円なり300円なりを取るなら別だけど、あれだけいい音出して、
ばっしんばっしん光らせて、場所をとって、メンテナンスも不可欠。それが
100円だなんて、実に有難いものだったんだなあ。でも「素晴らしい」
という風には、昔から思っていました。もう、最高に面白かった。極上の
時間が流れていることを意識しながらも、「落とさない、落とさない」と
ゲーセン根性まるだしで遊んだものです(若かった)。今ではほとんど、
見かけなくなってしまいました。

『ファイアボール』はMSX2専用ピンボールとしてはおそらく唯一の
ものなのではないでしょうか。それだけでなく、パースのついた一枚絵を
ドンとすえて、実際のピンボールの立体的なプレイ感触を再現しようとし
た作品として他のMSXの同種ソフトとは明らかに違います。HAL研の
ローラーボール』とどちらが出来がいい?と言うような話はあまり意味
が無いように思います。当時のパソコンで立体計算と表示が簡単に出来て
いたら、コンピュータゲームはこれほど愛すべきものには成り得なかった。
リアルに再現できないものを、ロマンの名のもとに抽象化・ディフォルメ・
再構築してきたのがゲームの歴史でした。コンピューター・ピンボールの
本流はむしろ『ローラーボール』『スクエアダンサー』のほうにあり、再現
性にとらわれない、自由な発想で、独自の面白さを目指していた。のちの
ナグザット『エイリアンクラッシュ』のような名作に到る道すじは、世代
を超えたリレーだったようにも思えます。(メガドライブの『DRAGON'S RE-
VENGE』なんかもナイス)
じゃあ、一方、リアル路線の『ファイアボール』はどうなのか。はじめて
プレイした時、あまりにも地味すぎないか、と思ってしまいました。全体
像がすぐ見えてしまうような感じで、圧倒的にフィーチャー(イベント)が
少なく見え、スカスカした印象があり、「もったいない」と思いました。
でも少なくともこれは、「とても真面目に作られたゲーム」でした。それが
だんだん良く分かってきて、起動に1分近く時間をとるのにもかかわらず、
ちょくちょく引っ張りだして遊ぶくらい、すごく好きなタイトルになりま
した。立体表現を駆使したリアルなピンボールのゲームソフトは、今では
いくらでもあると思いますが、『ファイアボール』の場合、実在感を追求
した結果として、わりと「レトロな」風合いのピンボール台として生まれ
出てきて、それをストレートにそのまま送り出した感じが、他では得がたい
ような透明感につながっているように思えます。

高い評価を受けた「カゼ」社の一連のデジタルピンボールなどは、イベント
発生の際にはディスプレイ演出のカット・インが入り、ゲームマシンらしさ
を活かした反面、プレイヤーとマシンのあいだに割ってはいるということを
やっているわけで、すき間がなく落ち着かないような、窮屈な印象を受ける
こともあります。こんなことを考えるのは、私だけなんでしょうか。
 ピンボール・マシンというのは、「ゲームシステム」が実体化したような
もので、そこに、小さなボールという実体としての不確定要素が行ったり来
たりするというアナログ的なものだとおもいます。そして、そのメカニズム
の上に、さまざまなテーマが載せられることで、独特のイメージ世界が生ま
れます。これらは、ピンボールが基本的に「シンプル」であるがゆえに持ち
えた先天的なもの。
 ボールと、フィールドの関係性を再現すること。『ファイアボール』は、
MSX2上でそれに努めていました。ボールが役物の陰にかくれる部分遮蔽
などは、3D処理を採用することで自動的にくっ付いて来るようなものとは、
重みが違います。ゆるい傾斜のついた板の上を、玉が転がる感じはなかなか
のもの。微妙なコントロールへの欲求に応えるべく、(CAPS)と(かな)
キーで「台を左右に傾ける」こともできます。随分、素っ気ないフィールド
なんだけれども、この不思議と「華のある」感覚はなんなのだろう。スコア
ボード上の色っぽいお姉さんのせいなのか?なんにせよ、この堅実な作りこ
みには、あたたかみを感じます。

 テーマ性という面では、このソフトは弱い印象で「プレイしながら向こう
に見えてくる」世界が希薄です。そこがすこし残念ではあります。イメージ
をピンボール台の上で躍らせるという楽しみは、コンストラクション機能を
そなえた『サンダーボール』、『ピンボールメーカー(未確認)』といった
ソフトで味わえるので、良しとしましょうか。

かつてゲームセンターの一角でプレイした『TIME MACHINE』や
『SECRET SERVICE』の輝きには程遠いかもしれないが、最も
近いところにいる。それが私にとっての『FIREBALL』です。

おすすめ度 : ★★★★
明滅度 : ★
デザイン : ★★★★
サウンド : ★★
サウンドの情報性 : ★★★★
ナッジング(台揺らし)の妙味 : ★★★
なぜかしら広島カープ?度 : ★★
さりげない部分に宿ってるリアリズム : ★★★

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このレビューに対するコメント
  1. ありがとうございます。 (hybrid.N)
    1. こちらこそ、ありがとうございます。 (ZL)



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